toys(after cat and cat






父に家の前で拾われた流河は、僕の部屋に泊まることになった。

即席で用意されたお誕生日席におさまった流河は体育座りをしている。
初めて流河を見る粧裕は、無口になって目の前にある少なめなおかずを見た。
母は始めは驚いていたものの、父から流河が泊まることを伝えられると了承してしまった。
流河を招き入れた父に不満を持つ僕は、澄ました顔で自分の席に座った。
右には親指を噛む流河がいる。

「ご飯を食べるときくらい その座り方はよせ」
「・・・わかりました」

立てていた足を素直に下ろした流河は、足をぷらぷらさせた。
勢い余って僕の足に当たってきたので、僕は一発蹴りをお見舞いする。
流河も応戦してきてテーブルの下で攻防しているうちに、食事が始まった。
僕は急いでご飯を食べ終える。
父は流河に話し掛けて気を遣っているが、流河の奴は箸の扱いが下手でこぼしたりしている。
フォークを渡されるとスムーズに食べ始めた流河を見て、僕は立ち上がった。

「ごちそうさま」
「ライト もう少し待ちなさい」
「お兄ちゃん はやーい」

妹がこの場に居てほしいと目で訴えてきたので、仕方なく座りなおした。
穏やかとは言えない雰囲気の夕食を終え、僕は食器を流しまで運んで洗う。

「私も洗ってみたいので教えてください」
「置いておけばいいよ」
「これで擦ればいいんですか?」

見よう見まねで流河が洗い出したので、両親の手前もあって見守る羽目になった。
ガチャガチャ音を立てたり、皿を落としかけたりする度に手を貸した。
妹の粧裕でも、ここまで僕の手を煩わたことはなかった。
疲れを感じた僕は、流河を置いて自分の部屋に戻った。




「僕のベッドは広くないから流河は布団で寝てくれ」
「これなら二人でも大丈夫ですよ」

無視した僕は、流河用の布団を敷いてやる。
流しで流河から離れられたのは束の間で、すぐに僕の部屋に奴はやって来た。
ベッドの上を陣取って動こうとしない流河を忌々しく思い、蹴り落としたくなる。

「ライト お茶持って来たわよ」
「ああ」

母の呼ぶ声に従ってドアを開ける。

「ショートケーキ よかったらどうぞ」
「ありがとうございます」
「母さん・・買いに行ったの?」
「お父さんがちょっとね」
「わざわざすみません」

殊勝なフリをしている流河以上に、ケーキを買いに走った父に呆れる。
いそいそと持って来た母にも腹が立ち、僕はさっさと追い出した。
振り返ると、流河はさっそくケーキを頬張っている。
僕は甘いケーキを食べて自分を落ち着かせようと努力した。
そもそもネコ耳なんか付けた男が家の前に居たら、普通追い返すに決まっている。

「流河 あのネコ耳は持って帰らせたのか?」
「いえ 持ってます」

ズボンのポケットから黒いネコ耳を取り出した。
流河はショートケーキの苺を残して、ネコ耳を付けて僕を見た。

「別に付けなくてもいいよ」
「実は夜神くんの分もあるんです」

かざして見せられたのは、茶色いネコ耳。

「・・・・・・」
「ワタリのお手製です 夜神くんにきっと似合います」
『クククッ 』
「似合うかどうかは問題じゃない! 僕はそんなもの付けないからなっ」

言われる通りに趣味の悪いネコ耳を繕ったワタリさんがこの場にいたら、あの白髭を引っ張ってやりたいくらいだ。
僕は流河の苺を食べようかと思ったが、大好物のトリである苺を食べたら流河が妙な行動を取りかねない。
一度失敗した過ちを思い出して、僕は唇を噛んだ。

「せっかくですから付けてみてください」
「嫌だ いいか流河 僕は仕方なく今夜泊めてあげるんだから少しは大人しくしてろ」

流河は茶色いネコ耳を摘んで持ち上げ、振り仰いで見ている。
その近くでは、ベッドに頬杖をついたリュークが面白そうに笑っている。
こいつら、まとめてどこかに捨ててしまいたい。
疲れた頭で捨てる方法をシュミレーションして少し気を晴らした。
僕は流河が摘んでいる茶色い方のネコ耳を奪い、ゴミ箱に投げ入れた。

「なにするんですか」
「僕はいらないから処分したまでだ」
「・・・ひどいことをしますね ワタリが一生懸命作った物なのに」

流河はゴミ箱からネコ耳を救出した。
僕は椅子に座って腕を組み、笑いながらそれを眺めた。

「早いけど僕はもう寝るから流河は適当にくつろいでくれ」

ゴミ箱へ移動した流河がベッドから離れたすきに、僕は自分のベッドに滑り込む。
流河のペースに合わせていたら疲労するのがオチだ。

「着替えずに寝るんですか?」
「ああ このまま寝るよ」

着替える隙をついて何か仕掛けられたらたまらないので、僕は着替えずに寝ることにする。
流河は布団ではなく僕の方に近寄ってきた。
しつこくネコ耳は手に持ったままだ。

「今寝たら夜神くんにネコ耳を付けて写真撮りますよ」
「ふざけるなっ! 今日は疲れてるから放っておいてくれ」

思わず上体を起こすと、小型カメラまで準備した流河がシャッターを切った。
カメラを取り上げようと向かったら、流河に押し倒されてしまった。

「了承もなしにカメラで撮るな!僕に渡すんだ」
「頼んでも快諾していただけないと思ったので・・これで夜神くんの素の表情が撮れました」
「早く上から退けてカメラを渡せ」

上から押さえ付けられてしまい不利な体勢になってしまったが、僕は必死でカメラを奪おうと躍起になる。
流河はとぼけた顔をして僕の攻撃をかわし、腕を掴んだ。
嫌な予感がして汗が伝う。
足で蹴り上げようにも、流河が乗っていては動かせず、僕は焦って流河を睨みつけた。
自分の黒いネコ耳を外した流河は、それで僕の両腕を束ねた。
ネコ耳ごときに縛られてもすぐに外れると思って両手を引っ張るが、びくともしない。
手に巻かれたネコ耳に気を取られているうちに、僕の頭には茶色のネコ耳が装着されてしまった。
僕は恥ずかしさと悔しさで歯軋りし、流河を攻撃したが不発に終わる。

「くっ・・・」
「ネコ耳とても似合っています やっぱり夜神くん用に作らせて正解でした」
「こんなの僕に対する嫌がらせだ すぐに外せっ」
「私しか見ていませんから落ち着いてください」
『ライト とうとうネコになっちまったな くくくっ』

お前には見えなくても、リンゴ狂いの死神が見物して笑っていると言ってやりたくなる。
流河はポケットからまたある物を取り出してきた。

「流河・・・まさかそれを僕に・・・」
「やはり尻尾も要ると思います」
「いらない!それになんだ何か付いてるじゃないか」

流河は茶色いネコ用の尻尾を持って僕に見せた。
妙なことでも企んでいそうな流河と、この部屋に居るのが怖い。
僕は声を張り上げて助けを呼ぼうと息を吸ったが、自分の今の格好を思い出して呼吸が止まった。
よりによってネコ耳を付けられている。
こんな姿を家族に、特に粧裕に見せるわけにはいかない。
僕の家であえてこんな変態行動をとる男が、憎らしくなる。

「そ・そんなものどうするつも・・んっ!?」
「舐めてください」

尻尾の先に付いているプラスチック製の部分を口中に押し込まれた。
僕はすぐに吐き出したが、円筒状のそれには唾液が絡まっている。
再度口に入れられることはなく、流河の動きを目で追う。
おもむろに僕のズボンを下着ごとずり下ろされた。
僕は嫌がって抵抗するが、剥き出しになった無防備な臀部に尻尾のプラスチック部分を入れられた。
少し潤っていたせいか、小さいこともあって簡単に入ってしまう。
力を入れてなんとか出そうとしたら、突然、中で振動が始まった。
驚いて見ると、尻尾が小刻みに揺れている。

「りゅ・・が・・何した!」
「これはローターになっていて私がリモコンで操作出来るようになっています」
「なっ・・・! すぐに抜け バカ!」
「そういう口の利き方をするならもっと強くしますよ」
「はっ・・・はずせ・・・・・うぅっ!!」

振動が強くなって僕は耐えようと体を折り曲げる。
声を上げないように食いしばって目を瞑ると、中の動きに感覚が集中してしまい、かえって辛くなった。
無機質な異物に反応していく僕の体。
鳥肌が立つほど嫌で仕方ないのに、勝手に熱くなっていく。
流河は尻尾を更に奥へ入れて僕を悶えさせた。
目を開けると、腕に巻かれた流河のネコ耳が視界に映る。
黒いネコ耳を噛んで気を逸らそうと必死になるが、強過ぎる刺激で僕の中心は膨らむ一方だ。
こんな道具で昇りつめるなんてまっぴらご免だ。

「ぬいて・・・ぬ・け!」
「そんなに嫌なんですか きちんとお願いできたら抜いてあげます」
「だれがっ するもんか・・・!」
「では このままでいいんですね?」

これは新手の苛めか何かかっ?
お願いすれば尻尾は外されるが、流河にお願いなんてしたくない。
しかし、このままでは玩具で、しかもネコの尻尾を入れたまま達するという汚点が僕に残ってしまう。
どちらも許し難いが一言で済むなら言ってしまおうか。いや、しかし・・。

「せっかくですから振動を最大にしてみましょうか」
「! 待て 早・・まるなっ」
「夜神くんがきちんと言ってくだされば私も諦めます」
「くそっ・・・・!」
「どうします?」

僕は追い込まれているのに、流河は笑みを浮かべて楽しそうに待っている。
たいしたことじゃないと自分に言い聞かせて、僕は言葉を発した。

「ぬいて・・く・ださい・・・」
「何をですか?」
「しっぽ・・」
「もう一度 きちんと文章にして言ってください」
「・・・・・・・・・・」
「言わないなら抜けません」
「〜〜〜さっさとこの尻尾を抜けっ!」

僕は思わず流河に命令した。
せっかく尻尾を抜こうとプライドを軋ませた努力が、水の泡だ。
僕は震える中心を感じて覚悟した。
ところが、流河は尻尾を僕の中から引き抜いた。
ひょうしに体が跳ねたが、達する手前でとどまる。
尻尾はベッドの上で振動を続けていたが、流河がスイッチを切り、静かになった。

「夜神くんはお願いのひとつもまともに出来ないんですね」
「違うっ 僕は相手を選ぶだけだ!」
「口の減らない人ですね」

今度は、指を突き入れられた。
余裕があるのか二本の指で中を掻き回される。
前立腺の辺りを指が通る度に漏れそうになる声を、腕に結ばれたネコ耳を噛んで押し殺す。
留め金を噛むと、緩んでネコ耳の拘束が外れた。
僕は、忌々しいそれを流河の頭に叩きつけた。

「取れてしまいましたか」
「ふざけるな・・・ここは・僕の部屋で・・・・家には家族もいるんだぞ!」
「壁は厚いですから、怒鳴ったり大声を出さなければ誰にも気付かれませんよ」
「ぐっ・・・と・とにかくよせ」
「私は待てません」

ぐっと流河が孔に当ててきた。
無理矢理拡げながら先端が入ってくる。
この時間が一番苦手な僕は、毎回体を強張らせて流河の侵入を拒否する。
足を割り開かれて組み敷かれる姿は誰にも見られたくないが、リュークは見ているに違いない。
部屋の灯りは眩しいくらいに照らしている。
詰めた息を吐いた僕を見計らった流河に、一気に貫かれた。

「〜〜〜〜〜っ!すこ・しは 優しく・・しろ」
「・・・善処します」

流河の顔が近付いて来て、目の前が暗くなる。
髪に手を差し入れられ、深い口付けを交わす。
ゆっくり髪を梳く手とは裏腹に、流河は飢えている獣みたいに噛み付いてくるので、僕の息はさらに弾んだ。
僕の前は限界寸前だったが、先に一人で果てるのは負けるようで我慢ならない。
動き出した流河が早く昇りつめるように、僕はタイミングを合わせて中を締める。
流河が息を詰めたのが気配で分かって、僕はほくそ笑んだ。

「珍しい・・ですね」
「ふっ・・さっさと・・終わらせた・い・・・だけっ・・!」

言葉を紡ぐのは不可能になった。
流河が奥まで突いてきて、僕は笑っている余裕がなくなる。
白いシーツを掴んで、揺さぶられて、耐え切れなくなる。

「くっ・・・・・――――――っ!!」

背筋を這い上がる電流を感じて、僕は腰を震わせて達した。
流河もすぐに僕の後に続く。
口付けをせがまれるが、首を振って僕は避けた。
まっさらに白いシーツが、よれてぐちゃぐちゃになっているのが視界に入る。

「・・・・シーツが・・・」
「シーツなら私が新しいのと替えます」
「どーせ他人を使うくせに・・・早く僕の中から出ていけ!」
「もう一度・・・」
「流河のもう一度は一度で終わらないだろう ことわ・・っ」
「断れないようにしますから返事はいりません」

どこか哀しそうに笑って、流河は再び律動を始めた。



翌日、同じベッドで眠る流河を見た僕は、二度とこいつを家に泊まらせないと決心した。
父が二度と泊める気を起こさないよう、僕は流河に茶色いネコ耳を付けて一緒に階下に下りた。
粧裕はまだ起きていないようで、テーブルには父と母が座っていた。
ネコ耳流河を見て、二人は動揺した。

「おはよう 父さん 母さん」
「おはようございます」
「・・・・・・」
「流河は昨日こんな格好で家の前に立ってたんだよ 信じられないだろう?」
「まあ・・その・・・似合っているからいいんじゃないか」
「そうね お母さんは可愛いと思うわ」
『うほっ』
「ありがとうございます」

僕は、両親に失望した。
イエスマンになってしまっている父と、意外にも流河を気に入った様子の母。
ネコ耳姿を見られても動じない流河もどうかしている。
この中でまともなのは、僕だけだ。
次はないぞ、流河。
僕は朝食を食べて今日も闘うために気を引き締めた。







04.07.30