今日の僕は一味違う。





a lot of sweets






流河とスーパーに寄って買い物をした後、ライトはホテルへ来ていた。
ケーキをねだられて買う羽目になったが
リュークにはリンゴは買ってやらなかったので、背後で拗ねている。
扉の内側へと招かれると、早速お茶が出される。

「いつもすみません」
「いいえ 私はお二人に飲んで頂けるのが喜びですから」
「ワタリ たまには私にもお金を持たせろ」
「しかし・・・洋菓子ばかり買っておしまいになるでしょう?」
「ぷっ ホント甘いものには目がないんだな」
「・・・・この話はまた後で」
「はい かしこまりました では」


お茶を淹れ、菓子の準備を終えるとワタリは退室した。
僕は気に入っているポテチを取り、流河は僕がお金を出したケーキを涎を垂らして見た。

「ケーキは甘いから先にポテチ食べてみなよ」
「はい ください」

手を差し出して流河が待つ。
ポテチを自分で開けようともしない男だが、待っている姿は妙に子供っぽい。
封を開き、大きめのものを一枚、流河の手のひらにのせる。
匂いを嗅いだ後、目の前の男はポテチを口に入れた。

「どう?」
「甘くはないですね・・もういいです」
「流河の口には合わなかったか 後は僕が食べる」
「ケーキ食べてもいいですか」
「ああ どうぞ」
「いただきます」

僕の了承を待っていたのか、次々にチョコケーキを口に入れていく流河。
ポテチの口直しか?

「おいしいです」
「ははっ よかったな」
「また買ってください」
「僕が買わなくてもワタリさんが用意してくれるだろう」
「スーパーにあるケーキは買ってきません」
「我侭な奴だな」

呆れながらも、口にケーキを頬張りながらねだる流河は珍種のハムスターみたいで笑える。
僕は半分食べたところでポテチを閉まった。

「夜神君 指が」
「ん ポテチ食べると油が付くから・・洗ってくる」
「待ってください」

ソファから立ち上がろうとした僕を流河は制した。
油分の張り付いた指を迷いもなく口に入れられる。

「流河・・・ケーキ食べてた口で舐められても・・・」
「・・・おいしい」
「?」

油を舐めておいしいと言っている流河に疑問を抱いたが、指の腹を舐められて体が震えた。
今日は僕が先に仕掛けるつもりだったのに・・・!

「流河 もういいから」
「・・・・・」

舐められていた指は空気に触れてすっと冷えた。
舐められる前よりもかえってベタ付いているのは気のせいじゃない。
僕はお返しに流河の左手を取り、人差し指を噛んだ。

「!」

流河が珍しく固まった。驚いているに違いない。
何といっても、僕から流河に仕掛けるのは初めてだ。
噛んだ箇所を今度は舐めてみる。
甘党の男の指は、石鹸の香りがした。

「夜神君・・・?」

流河は僕の行動に戸惑ってはいるが、止めようとはしない。
二人掛けのソファに座らせ、僕は流河に迫った。
指を舐めるのにも飽きてきて上着を脱がせる。
抵抗もしないが協力もしない男は大人しくされるがままだ。
細身だが、貧弱ではない体が服の下から現れる。
キス・・・はよしておく。
首筋に顔を埋め、両手で流河の体を撫でまわす。
胸の突起を自分がされたように弄っていると、芯が通って立った。
しかし流河は特に反応もなく、表情も変わらない。
これじゃあ、いつも僕が感じているのがバカみたいじゃないかっ。
悔しくなって、流河を観察しながら口で乳首を含む。
指と口の合わせ技だ。
ピクリと体を震わせるが、流河からは余裕が窺える。
面白くない。
勢いで男の下半身に手を掛ける。
ズボンを剥こうとしたが・・・

「流河は・・・下着穿いてないのか?」
「ああ 忘れてました」
「忘れるとかそういう問題じゃないだろう・・・」

中途半端に脱がしたところで手が止まった。
僕は、この先どうするつもりなんだ!?
男の性器を触るなんて出来ない・・・少し起ち上がったソレを見れば見るほど手が竦む。
もっと流河を困らせて捻じ伏せる予定だったが、この辺で勘弁しといてやる。

「手 洗ってくる」
「私をこのまま置いていくんですか」
「ティッシュ ここに置いておくから」

暗に自分で処理しろと、ティッシュ箱をソファの傍にあるテーブルの上へ置いた。
と、急に視界が回った。

「次は私の番です」
「!? ――――流河の番はないっ!僕は手を洗って帰る」
「夜神君は・・勝手です」

こいつにだけは言われたくない。
しかしソファに倒されて圧し掛かられてしまった。
非常にまずい状況に陥っている。
身を捩り腕を振って抵抗するが流河の押さえ方は的を射ていて逃れられない。

「今日はしない!」
「散々自分から煽っておいて・・・今さらですよ」
「くっ 後は一人で・・・ケーキでも食べておけばいいだろう」
「ケーキですか・・まだ一つ残ってます 一緒に食べましょう」

流河がテーブルに意識を移した隙を狙って下から這い出そうとしたが、
予測していたのか難なく抑えられた上に、上着を剥がされ腕を頭上で一まとめにされる。

「解けっ 流河! この変態っ!!」
「夜神君は分かってませんね」
「な・・・なんだ」

皿に盛られたショートケーキを手にした流河は、フォークで一口大分すくい上げると僕の胸に載せた。
何をする気だ・・・?
両胸に載せ終え、新しくすくったケーキを僕の口元に差し出してきた。
咄嗟に顔を背ける。

「おいしいですから 食べてみてください」
「食べさせられるのはイヤだ」
「・・・そうですか」

差し出していたケーキの欠片を流河は自分の口に入れた。
手ずから食べさせられるなんて恥ずかしいことをされずに済んだ。
思って気を抜いていたら、流河の顔が視界一杯に広がった。

「んっ!!」

強引に入り込んだ舌とともにケーキの残骸を飲まされる。
味わうどころか喉に詰まって苦しい。
流河はそのまま深く口付けてきて、それは僕の脳が酸欠になりかけるまで続いた。
ぐったりしていると、流河の唇が顔から首、胸へと下りていく。
唇が通った後には淡く赤い跡ができた。
載せておいた潰れたケーキを胸の突起ごと口に含まれる。

「!!・・・・」
「甘いです」

両方のケーキを丹念に食べ終えた流河は、下肢に手を出してきた。
不自由な腕を振り回すが、ズボンを脱がしている男には届かない。

「流河!よせ」
「ここも食べさせてください」
「何言ってるんだ!?」
「分かるでしょう」
「・・・・・?」

剥き出しになった中心に、ケーキのクリームをフォークで飾られていく。
悪趣味な流河らしいと納得している場合じゃない。
白いクリームでコーティングされていくのを黙って見過ごすわけにはいかない。

「流河っ今やめれば許してやる 腕をほどけ!」
「許されなくてもいいです」
「なにっ」
「動かないでください フォーク・・・刺さってしまうかもしれませんから」

体の動きが止まる。
流河の持つフォークは先端こそ鋭利ではなさそうだが、
あんなものが性器に刺さったらと思うと竦んで下手に動けない。
こいつには以前、僕のソコを力を入れて握ってきた前科がある。
抵抗すれば刺しかねない男の言葉は、僕の内に根付いた。
気が済んだのか、フォークを皿に戻した流河はクリームをチロチロと舐めだした。

「くっ・・・」
「おいしいです 夜神君」

聞いてもいない感想を漏らす男を睨めつける。
口付けの時点で反応し出していた中心は、僕の気持ちを置き去りにして硬度を増す。

「濡れてきましたね」
「うるさいっ 僕は・正直なだけだ こんな風にされたら誰だって・・・」
「敏感な方かと思いますが」
「流河だから・・・ってわけじゃない!」
「夜神君は 私でなくてもいいんですか」
「当たり前・・・だろっ」

流河以外にこんなことする奴は居ないだろうけど、と心の中で付け足す。

唐突に、僕を投げ出した流河は。
上から退き、一人掛けのソファに乗り体育座りを決め込む。
ぽっかりと開いた眼は何を映しているか分からなくて不気味だ。
腕は縛られたまま、追い上げられて前を起たせたままの僕はゆっくりと起き上がる。

「流河・・・ど・・したんだ?」
「何でもありません」

明らかに様子が変わった男を刺激しないようにじっと窺うが、
舐めまわされた体は頂点を待ちわびて自然と揺れてしまう。
この場で自分で・・・それはあまりにも格好悪すぎる。
なるべく静かに移動すべく、トイレを目指して足を進める。

「どこへ行くんですか」
「ちょっと・・・」
「私から離れるつもりですか」
「いや ・・・すぐ戻るから」

流河に構っている余裕が無くなってきた。
言い捨てて前屈みになりながらふらふら歩いていたら、後ろから強い衝撃を受けた。

「いっ!」

縛られた両手ではうまく手を付けられず、僕の体はカーペットに叩き付けられた。
うつ伏せになって呻いていると男が馬乗りになって前に手を回してきた。
乱暴に扱き上げられる。
刺激を欲していた僕の欲望はあっけなく登りつめた。


「はっ――――――――――っ!!」


粘ついた液は流河の手やカーペットへと飛び散った。

男の予測不可能な行動はいつものことだが、今日はいつも以上におかしい。
荒く息をついている間に腰を抱え上げられ臀部の狭間に何か押し付けられる。
グニャリ、潰れながら入ってくる。
汁を滴らせて指まで侵入してきた。

「流河! 何入れた・・」
「苺です ケーキにのってた」
「!?」

衝撃で言葉が出ない。
苺は食べるものであって・・・そんな場所に入れるものじゃない。
見えない部分を思って気分が悪くなる。
指で拡げられているのが分かって前へ這いずってでも進もうとするが、
背後から吸い付いてくる男はそれを許さない。

「イヤだ 流河! 抜け」
「私はまだです」
「食べ物をそんな扱い方して・・・」
「こういう使い方もあるんです 夜神君が知らないだけで」

いつもとは違い、背後から弄られて顔を見られずにすむのは気が楽だ。
しかし流河の無表情な顔を見れないまま触れられるのがひどく怖くなってくる。
同じ男の手付きが、背後からだと違うもののようで不安になる。
敏感な内側は流河の指に反応するが、偽りなく心は拒絶している。

ほぐれた孔に男が入ってきた。
揺さぶられて足がガクガクする。
気付けば四つん這いのようにはしたない格好で男を受け入れている自分がいた。
中を擦られれば反応する、前を弄られれば反応する。
体だけ。
嫌だと思いながらも快感に飲み込まれる僕だが、今日はどこか冷めた頭で眺める自分がいる。
流河がおかしいからだ。
だから、僕もおかしい。
釈然としないまま背後から貫かれ、僕達は果てた。


違和感だらけの交わりは僕が嫌がっても再開された。



























「もう限界なのかもしれない」

違和感を感じ取って乗れないライトをあの後何度も揺さぶって眠りにつかせた。
私でなくてもいいと言ったお前の一言に、傷付いているのを悟られたくなくて・・・
乱暴に背後から犯した。
今日のは、完全に自分勝手だった。
自分のものにしてしまいたくて、しかし出来ないのも分かっていた。
分かっていたはずだが、言葉にされて思い知って箍が外れた。
八つ当たりもいいところだ。


「しばらく・・・距離を置いたほうがいいのか」


このままでは何をするか分からない。
嫌がる姿が、反抗する言葉が、余計に相手を煽ると知らない子供。
私の気持ちを知れば離れていくのは想像がつく。


眠る子供が寝返りをうち、こちらを向いた。
一度、小さく震えると温もりを求めてか、私の胸元に頭を寄せてきた。

寒かったから。

理由は一つしかないが、無意識に擦り寄られて喜びが駆け抜ける。
愛しさと独占したい気持ちが膨らむ。
人から見ればそんな些細なことで、と笑われるだろうか。
そっと薄茶色の髪を摘んで指触りを楽しむ。
手放せない、と思う。
今ライトを失うのは、大好きなケーキが食べられなくなるより辛い。



先ほどまでの後悔を彼方に投げ捨て、
自分の気持ちは押し隠して接っすることを、眠る月の髪に口付けて誓った。












不貞寝していた死神は、リンゴの夢を見ていたために見逃してしまった。

 


04.06.11