満員電車は嫌いだ。







train-train












流河の誘いを振り切って辿り着いた駅のホーム。
大勢の人並みに圧倒されたが時間を無駄には出来ない僕は、人込みに紛れて電車に乗り込んだ。


電車の揺れに合わせて周りの人間に押されながら、
ドアの前の空間に居る僕はポールを握ってしっかりと立つ。
流れる街並みをガラス越しに眺めていると、ふと
流河旱樹などとバレバレの偽名を使う男の顔が浮かんだ。
こんな何気ない瞬間に、
あいつの何を考えているか読めない顔が僕の頭の中を占領するのが忌々しい。

息を吐き、視線を転じた先では、リュークが荷物棚の上に寝そべっている。
家でも僕のベッドでよくくつろいでいるが・・・
こんな姿を見ると、リュークが死神なのを疑いたくなる。
顔は、分類するなら魚類か・・・?
眼が剥き出しで、本人も自覚しているように口は裂けている。
あんなに裂けていて痛くないんだろうか、と下らないことを思いついてみる。


次の駅に電車が滑り込み、多くの乗客が降車して圧迫から解放されたのも束の間。
乗車してきた人の群れに再び押し潰されそうになった。
甘ったるい香水の匂いや鼻を摘みたくなるような体臭。
僕に当たっている他人のカバンや肉の感触、全てが不愉快だ。

早く最寄り駅に着くことを願っているとき。
何者かが背後にピタリと密着してきた。

僕の不愉快度指数は上昇の一途を辿り、少しでも体を離そうと身じろぐがまるで効果は無い。
それどころかますます体を押し付けてくる。
おかしい・・・。
まさかわざと・・・・・?
しかし僕は男であってそんな対象になるはずがない。
動揺していると、背後のオトコが体の熱い一部分を僕の臀部に当ててきた。
気持ち悪い。
何なんだ、このオトコは!!
しかし下手に騒いで周囲の人間に気付かれるのは、もっと許せない。
ここは大人しくしておいて次の駅で降りよう。
頭の中で忙しなく考えを巡らせ、少しでもオトコから逃れようと僕はもがく。
オトコは僕をドアの方へ囲うと、腕を前へ回してきた。


「!?」


春物のシャツの上から、オトコは胸の突起を指で挟んできた。
そんな部分を構って何が楽しいのか理解出来ない。理解したくも無い。
とにかく相手の望む反応を返してはいけない。
僕は冷静を装ってドアとオトコの間に立っていた。
オトコはそんな僕を嘲笑うかのように
片手を刺激で尖り始めた胸に残し、もう片方は太腿へ這わせてきた。


「っ・・・・」


前へと触れてきた手を反射的に叩き落とすが、しつこく触れようとしてくる。
密やかな攻防を繰り広げている間に、再び、電車が止まった。


降りるチャンスだ。
しかし
開いたのは反対側のドアで、オトコが邪魔していて降りられそうもない。
オトコが僕に密着している状態を、誰も不審に思わない周りの無関心さと混みように辟易するが、
見つかるわけにはいかない。
顔を見てやろうと首を動かすと、オトコはすかさず顔を僕の背中に隠して見えないようにする。
機敏な動作・・・こいつ慣れているのか?

「!!」

いつの間にかフロントチャックを下ろした指が中への侵入を果たした。
慌てて悪戯な腕を掴むが、急所を捕らえられてしまい下手に動けない。
ジワリと冷や汗が背中を伝った。
リュークは・・・と荷物棚を見やると、
相変わらず暢気に横たわっている。
アレに期待しても無駄だった。
たとえ気付いたとしても、どうせ面白がるだけだろう。


「くっ・・・・」


図に乗った指はやわやわとソコを揉みしだく。
吐き気がする。
どこの誰とも分からないオトコに、大勢の乗客がひしめき合う電車で
いいように扱われるなんて・・・!

しかし、オトコの的確な手付きに僕は勝手に反応し出した。

弄られ続けている乳首はジンジンと熱を帯び、
オトコが摘んだり捏ねたりする度に体が震えてしまう。

ひたすら声を殺し、汗の浮いた手でポールに縋る。

玩ばれている分身が起ち上がり、膝が笑う。

「はぁっ・・・・」

血が流れ込んで熱く成長した欲望からオトコは唐突に手を離し、
チャックを無理矢理上げられた。

ハッとしたときには、目の前のドアが開いていた。

今しかない。
前屈みになるのを耐えて、ホームに足を着いた。
後ろからわらわらと出てくる乗客に押され、流れから弾かれる。
オトコの行方を追う余裕はもはや僕にはなく、
目を泳がせて一番近いトイレの位置を探す。
早く・・・早くしないと。
焦りながら足がふら付いた。


「こっちです」


聞き覚えのある声に腕を引かれた。
まさか・・・オトコの正体は。


「流河! ど・・して・・」
「今は急いで」

速度のゆるやかな僕の歩調に合わせて流河が手を引く。
傍目には手を繋いで見えるかもしれない。
握り締められた手を振り払う気力もない僕は、
流河に導かれて駅前に堂々と停まっているリムジンに乗り込んだ。


「いったい・・・何を考えて・・・!」
「夜神君が私の誘いを無下にしたからです」
「だからって・・・あんな行為・・・許されると思って・・るのか」
「しかし夜神君も途中からは乗ってましたね・・・ほら」

おもむろに、流河は前の膨らみに触れてきた。


「僕は嫌がったのに・・・流河が!」
「そうですね」
「どんな気持ちで・・・僕が・・」

悔しさのあまり涙が込み上げそうだ。
僕は誤魔化すように、顔を俯ける。
移動中の車中で流河は僕の分身を再び弄りだす。
ここまで高まると、もう自分では歯止めがかけられない


「うっ・・・・・」
「もう 声我慢しなくてもいいんですよ」
「・・・・・・はっ」


既に煽られていたソコはさすがに限界が近かった。
しかし、僕は意地でも声を出すまいと唇を噛み締める。


「夜神君! 唇が切れてしまいます」
「――――――っ」


唇が切れるくらい、こいつに声を聞かれるよりはよっぽどマシだ。
第一、運転手までいるのに・・・。


「また 強情を張って・・・」


叱るように言って、震えて達しそうなソコを流河は指の輪で封じた。
浅ましく揺れるソレが目に映り、僕は慌てて目を閉じる。


「口を開くまでこのままです」


何様のつもりだ。
正直、ここまで来て塞き止められるのは辛いが、こいつの言うことを聞いてはいられない。
緩慢な仕草で首を振るが、流河の表情は特に変化しなかった。
やにわに根元を押さえたままのソコに顔を近づけてきた。


「っ!?」


舌先でなぶり、先端をチロチロと舐められる。
口元を右手で覆い声を堪えながら、僕は流河の生み出す刺激に慄く。
こいつは僕がいちいち反応するのが面白くて仕方ないのか?
ギョロリとした眼で人の様子を観察している。
もう、解放してしまいたい。
覚えのある衝動が駆け巡るが、僕は理性でそれを抑えつける。
充血した僕は、先端から液を漏らしている。
流河は汚いというのに、丁寧に舐めとる。
こいつ・・・甘いものが好きなくせに。
平気で口に入れる奴の気が知れない。
こいつのことは、分からないことが多過ぎる。
それにしても

「んっ・・・・・」
「もうすぐホテルに着きます 早くしないと・・・ドアマンに見られてしまいます」
「 !?! 」


こんな姿を見られるなんて考えられない。
それに比べれば口を開くぐらい、簡単なことだ。
しかし・・・


「私は構いません・・・見られても 夜神君が決めてください」


こいつ・・・!
人の足元見やがって。
こういう物言いが気に食わない。
しかしもう・・・迷っている時間は・・・・・無い。
仕方なく。不本意だけれど。


「はぁっ・・・・分かった・から・・早く!!」
「声 ちゃんと出してくださいね」
「・・・・・・」


ここは、嘘でも頷いておく。
焦らされたソコは、今にもはちきれそうだ・・。
流河は僕が頷くのを見て、動いた。
指の戒めを解かれ分身を思い切り吸い上げられた僕は、流河の口に熱い飛沫を放った。


「――――――――ぁっ!!」


声を殺すクセのある僕の喉は、その瞬間、微かな音を発した。
余韻でビクビクと体が震えている。
みっともない姿を隠すことも出来ず、僕は顔を俯けた。


「やっぱり 苦いですね」
「・・・飲・・・んだのか・・・?」
「はい 夜神君のですから」
「なに・・・バカなこと・・・!」


虚勢を張っていたが、緊張の糸が撓んだ僕の体は座席へズルズルと沈んだ。
流河は人の一物を頬張った後、ティッシュを取り出して拭き、元へと戻した。
何故か僕に対してマメな部分を発揮するが、これを自分には回せない流河を不思議に思う。











結局、ホテルに到着して部屋に行くはめに陥り、僕はその日家へ帰ることが出来なかった。































『ククッ らしくないじゃないか あの流河って奴に完全に押されぱなしだな ライト』
「・・・・・ちっ」


今にみてろよ、流河のやつっ。
僕がいつまでもお前に踊らされると思ったら大間違いだ。
次は僕が先に仕掛ける!



だるい腰に苛立ちを感じながら、
僕は流河に勝ってみせると、白みはじめた空に浮かぶ残月に誓った。




 


04.06.05