the proposal





捜査本部に加わったライトは、Lと二人きりの状況になることが多かった。
意図的に室内でライトと過ごそうと手を回しているLの策略だ。
仕事が一段落したところで、いつものようにお茶とケーキが運ばれてきた。

「夜神くん 私が以前言っていたマチャチューチェッチュ・・のことですが考えていただけましたか」
「はは 噛み具合がひどくなってるな 僕が流河とマサチューセッツに行くことはありえないよ」

練習の成果も虚しく、Lの噛み癖は治るどころか悪化していた。
呆れた顔のライトにあっさりと断られる。

「私にチャンスをください」
「しつこいな・・・“東京特許許可局”を早口で三回言ってみろ」
「実在しない名称を唱えるのは気が進みません」
「早口言葉の定番なんだけどな じゃあ“バスガス爆発”でもいい」

頼んできたくせに態度の大きいLの苦手な、サ行混じりの言葉をライトは選んだ。
頭の中で三回繰り返したLは、意気揚々とチャレンジしてみることにした。

「よく聞いていてください」
「はいはい」
「では “ガスバスばくはつ”“ガスバスばくはちゅ”“ガスバチュバッ”・・」
「アウトだ 二回目で“爆発”の“つ”が“ちゅ”になってた」
「細かいことを気にしていたらいけません」
「これは正確に言うテストだ!しかも流河は三回目に噛み噛みで詰まった もう諦めろ」

簡単にクリアーして、ライトと連れ立ってマサチューセッツへ旅立つことを思い描いていたLは意気消沈した。
目の前にあるショートケーキをフォークですくって食べるが、甘くおいしいはずのケーキがもそもそと口の中に残る。
Lの戯言を退けたライトは、持参していた荷物をLの前に置いた。
水色の包装紙に包まったものを見ても、Lは表情を曇らせたまま落ち込んでいる。

「流河 これは君へのプレゼントだ」
「!夜神くんが私に・・・・?」
「泊まる度にいろいろ貰ったりしているからたまにはね」
「開けてみていいですか」
「ん」

はやる気持ちでLは包装紙を親指と人差し指で器用にはいでいった。
中から出てきたのは、肌触りのよい半円形状のものに紐がついている物体だった。

「これは・・・」
「涎掛けだ」
「私にピッタリのものですね しかし涎で服を汚したりはしません」
「いらなかったら捨てればいい」
「いえ・・・大切に飾っておきます」
「僕は実用的なものを選んだんだぞ 子供用の中でも大きいサイズだし・・つけてみろ」
『ククッ 嫌がらせか』

背後でリュークが笑ったがその通りだった。
一歳の頃の粧裕の写真で涎掛けを目にしたライトは、Lへの嫌がらせを思いつきわざわざ購入したのだった。
Lに似た蛙のイラストが施されている涎掛けを首から垂らした男を見て、ライトは噴き出した。

「流河 とっても似合ってるよ あははは」
「ありがとうございます」

笑われたものの、初めてライトからプレゼントを渡されたLは大喜びした。
涎掛けをしたまま親指を噛んで涎を垂らしてみると、ライトが笑うので調子に乗って涎を垂らし続けてみる。
ひとしきり笑ったライトは、自分の選んだプレゼントに狂いはなかったと自画自賛した。

「よかったら夜神くんもどうですか?」
「冗談はよせ! その涎掛けは流河のものだし僕は涎を垂らさないから必要ない」
「遠慮することないですよ」
「やめろっ」

涎掛けをはずして、首にかけようとするLの体をライトは両手で突っぱねた。
ライトとLが揉み合う中、リュークはテーブルに頬杖をついて悠長に寛いでいる。
腹が立つので、またリンゴ抜きの刑にしてやると心の中で毒づく。
ライトが座っているソファは大き目のもので、抵抗も効かず押し倒された。

「流河! 涎掛けを僕に付けたりしたら返してもらうからな」

今にも紐を結んで装着しようとしていたLは、指の動きを止めた。
せっかくのプレゼントを取り上げられてはたまらない。
渋々涎掛けをテーブルの上へやり、Lはライトと唇を重ねた。

「っ・・・・・」
「・・・・・・・」
『おっ』

向かい側のソファとテーブルの間に座っていたリュークは声を上げた。
さらにライトの怒りを煽っているとは知らず、暢気に見物する。
耳朶を甘噛みされたライトは顔を逸らした。
Lは、嫌がられる箇所を執拗に噛んでは舐めてライトの熱を高めていく。
反応を示しているライトの中心にたどりつき、手に取ったLは舌で弄り出す。
直接強い刺激を与えられたライトはすぐにでも爆発しそうだ。

「流河・・・・顔はなせ・・」
「・・・・・・・・」

ライトの要求を無視して先端の敏感な部分を吸い上げる。
腰を駆け上る快感に抗うことも出来ず、ライトは果てた。
放出するのを見計らったLは涎掛けでライトの欲望を受け止めた。

「・・・使い方・・ちがう」
「大人の涎掛けはこういう使い方をするものです」

残滓を拭き取って言い切ったLに、跳ねる呼吸を整えながら、大人の涎掛けなんてあるのか・・?とライトは混乱した。
前にケーキの違う使い方を身をもって教えられたライトは、性に関する知識の乏しさを悔やんだ。
脱力したライトの際奥をLは人差し指でほぐし始めた。
ツボを押さえた指の動きに、再び前が元気を取り戻す。

「っ・・・・くっ・・・・」

声を洩らさないように唇を噛み締めて両腕を顔の前でクロスさせると、Lに両腕を押さえられてしまった。
血が滲み出しそうなほど食いしばった唇を舐められる。
侵入してきた舌。
口付けによってライトの声はLの口中で響いた。
中を掻き回していた指を抜き、自分の前をくつろげたLは、思わせぶりに先端で孔を擦る。
少しだけ入れて、すぐに抜くという動作を何度か繰り返した。

「流河・・・何がしたいんだ」
「私が欲しいですか」
「・・・・・・」
「欲しいと言ってください そうしたらいつものように夜神くんの奥まで入ります」
「僕を焦らすつもりか いい気になるなっ」

中途半端な刺激をもたらすLの行動に苛立ち、ライトはLを睨み付けた。
ライトの視線を受けてぞくぞくしたLは一刻も早く中に入りたくなるが、ライトの言葉を待って辛抱する。

「いいんですか 言わなければこのままです」
「〜〜〜〜〜っ」
「夜神くんも待ち遠しいでしょう?」

誘惑しようと言葉を連ねるLに賛同するのはライトのプライドが許さない。
しかし体の方は正直で、限界が近いライトは顔を真っ赤にして怒鳴った。

「さっさと入れろっ この変態涎垂れめっ!」
「夜神くん・・・」

望んだ言葉とはかなり違ったが、切羽詰ったライトの表情を拝めたLは顔を緩ませた。
悔しくなったライトは目と鼻の先にあるLの頬を摘まんで伸ばした。
しかし、Lが体を重ねてライトの内に捻じ込んできたため、すぐに頬から手をはずした。
揺さぶられて快感の渦に飲み込まれる。
激しく突かれたライトは中のLを締め付けた。

ライトが意識を手放すまで、二人は交わり合った。





翌朝。
捜査疲れでうたた寝をしていたLが起きると、ライトは隣にいなかった。
ベッドから下りてライトを探す。
水音を聞きつけて風呂場へ向かう。
先に起きてシャワーでも浴びているかと期待して覗くと、ライトは手で洗い物をしていた。
その姿はアライグマのようだ。
微笑ましく見ていたLはライトの手にあるものを知って目を剥いた。

「夜神くん それは私の涎掛けでは・・」
「おはよう流河 洗っておいてあげたよ ほら綺麗になった」
「なぜ洗ってしまったんですか!?大切に保管しようと思っていたのに・・」
「何バカなこと言ってるんだ 感謝されるならまだしも怒鳴られる筋合いはない」

せっかくのライトの液付き涎掛けを洗われてしまい内心むくれたLだったが、あまり言うと貰った涎掛けを返せと言われそうなので押し黙った。
水分を含んだ洗濯物をしぼって適当に干したライトは、酷使された体を引きずらないように胸を張って歩く。
入り口でぐずぐずしているLを気にせず通り過ぎてソファに座った。

「あの涎掛けは一生大事にします」
「流河は大袈裟だな たいしたものじゃないだろ」
「私にとっては宝物です」
「涎垂れの流河には大切なものってことか はは」

好きな相手からのプレゼントだから宝物と言ったLの気持ちは、ライトに通じていない。
気持ちを伝えれば壊れる関係だと、Lは頭では理解している。
心でいくら求めていても、ライトに言えない言葉がある。

「そうだ・・流河に下着を買ってやろうか いつもはいてないようだし・・」
「お気持ちは嬉しいのですが下着は苦手なのでいりません」
「せっかく人が買ってあげるって言ってるのに・・流河にはもう何もあげないからな!」

気まぐれに提案した申し出を却下されて拗ねるライトを、Lは腕の中に包んだ。

もう沢山貰っています。

ライトの使用済み下着やハンカチといった形として残るもの以外にも。
腕に納まりきらない溢れ出す気持ちや、知られてはいけない哀しみ。
ライトを見た時から初めて体感する感情を、いくつも貰った。
抱きしめられる喜びを、負けず嫌いなライトをからかう楽しさを、甘える心地よさを。
いつか見返りを求めないと誓ったはずが、次第に欲張ってライトのすべてを手に入れたいLがいた。

愛しています、夜神くん。

永遠はないと思っていたLだが、この日Lはライトへの想いは永遠だと確信した。
ライトには言わない。
抱きしめていたライトの肩に手を置いて、Lは一方的な誓いのキスを送った。
気だるい朝っぱらから何か仕掛けるつもりかとライトは怪しんだが、先に進みそうな雰囲気はなかったので安心する。

「流河 暑苦しいから離れろ」
「しばらくこうしていたいんです」
「鬱陶しい 僕は朝ごはんを食べる」
「・・・つれないですね」

余韻に浸る間もなく腕を振り払われたLは、朝食を準備するようワタリに指示を出した。
表面上は変わりない朝だったが、Lにはすべてが塗り替えられたように映った。





「私の愛を甘くみないでくださいよ」

親指をしゃぶって笑顔で呟いたLの言葉は、リンゴ好きのリュークを驚かせた。





 


19.プロポーズ
04.07.17

thank you,dear….