mischief





野球拳で勝った僕が流河の目の前でこれ見よがしに苺を堪能していたら、いじけて指を咥えていた流河が飛び掛ってきた。
普段の行動からは考えられない素早さで、組んでいた僕の腿に跨って両手を捕らえられる。

「流河・・」

逆光で暗い流河の顔が近付いてきたのを察知して顔を背けるが、背後は椅子、前は流河に阻まれて逃れられない。
油断した自分に舌打ちしてみても遅い。
唇に噛み付いてきた流河にきつい視線を送るが、意に介した様子もなく大きな黒い瞳で見つめ返してくる。
目の大きさに改めて驚きながら、目を閉じたら負けるとでもいうように睨みつけてやる。
口腔に滑り込んだ舌は、甘いケーキと苺の残骸を探ろうと必死に這い回る。
邪魔をしようと舌で応戦すると、絡みついて来た。
次第に息が上がりどちらのものとも分からない唾液が唇の端を伝う。
苦しさが募る深い口付けをやめさせようと体を揺すったが、流河はしつこく続ける。
痺れて感覚が無くなっていくのを感じながら、瞬きをしない流河の目を不思議に思ったりした。
耐え切れず視線を落とすと、流河が戒めを解いた。
荒い息を整えようとしている間に、細い指で服を剥がしていく流河。
平然としている顔を見て、悔し紛れに唾液まみれの唇をハンカチで拭う。
常にポケットに忍ばせているハンカチを、こんな用途で使う日が来るとは思わなかった。
気の済んだところで流河にハンカチを奪われてしまった。

「返せ いや 返さなくてもいいが処分しておけ」
「分かりました」

素直に了承した流河は丁寧にテーブルの上へハンカチを置いた。
隙を突いて、足の上の流河を落とそうと企んだが、その前に自ら下りた流河に肩透かしを食らった格好となった。

「夜神くん ベッドルームへ行きましょう」
「一人で行けばいいだろう? 僕は遠慮しておくよ」
「ここですと汚してしまいます」
「気を回すなんて珍しいな ワタリさんにでも注意されたのか?」
「・・・・・・」
「ははっ だったら汚すようなことをしなければいい とにかく僕はここから動かないから」

圧し掛かられていたため痺れた足を組み替え、僕は腕を広げて流河に言い放った。
前屈みに立っている流河は親指を噛んでじっと僕を凝視する。
鬱陶しい。
はだけたシャツのボタンを留めなおしている手を、流河が掴んできた。
細腕の割には握力はあることは体験済みだが、痛みを覚えるほど握られて顔が歪む。

「痛いだろうっ 少しは加減を覚えろ!」
「仕方ないので夜神くんの希望通りここでします」
「僕はそんなこと望んでいない 人の話をちゃんと聞いてるのか?」

とぼけた顔で頭を傾げた後、指ははだけた肌を弄りだした。
こいつの場合、天然なのか故意に取り違えた振りをしているのか判別できない。
だから厄介なんだ。
とにかく、簡単に思い通りにされるのは癪だ。

「いいのか?ワタリさんの言いつけを破って」
「清掃でも弁償でもすればいいことです」
「そんなに僕を抱きたいのか?」
「はい いけませんか?」

堂々と答えられて、怯んでしまう。
僕は理屈を大切にする性質だが、流河はどちらかといえば本能に任せて行動している。
僕の理屈が通用しないところに居て、扱いづらい。
黙っていると、流河は僕の鎖骨に吸い付いてきた。
ピリッとした痛みが走り、流河の髪を引っ張り顔を退かせると、噛まれた辺りが赤くなっていた。

「流河! 噛み付いたりして跡を残すなっていつも言ってるだろう」
「噛み付くのが癖なんです・・気を付けますが自信はありません」
「最大限の注意を払うようにしろ いいな!」
「はい」

しおらしく頷いた流河は胸の尖りに狙いを移して、丁寧に弄る。
流河と寝るようになって知った僕の弱い部分でもあるそこは、すぐに硬くなって先をねだる。
僕は何でもないように装っているが、執拗に口と指で弄られて腰が浮く。

「りゅうが・・そこはもういい」
「催促ですか」
「違う! と・とにかく離れろ」
「このままでは下が脱がせないので少し腰を浮かしてください」
「協力してたまるかっ 僕は動かないと言ったはずだ」

笑って余裕を滲ませていると、流河がしゃがみ込んで僕の座る椅子の手すりに手を置いた。
不審に思ったときには、僕は椅子ごと後ろにひっくり返されていた。

「危ないだろう 僕に何かあったらどうするつもりなんだ!?」
「これしきのことで受身も取れないほどの人ではないでしょう 夜神くんは」
「このっ・・・!」

乱暴な行為を棚に上げて開き直る流河に激しい怒りが湧き上がり、僕は立ち上がって流河の胸倉を掴んだ。

「動きましたね」
「・・・!」
「動かないと言っていたのに動いた・・私の方が上手です」
「なんだって!?人のこと突き倒しておいてよくもそんなこと・・っ」

抗議半ばで流河に担ぎ上げられた僕は米俵のように運ばれた。
少しよたつきながらベッドルームに向かう流河の背中を、垂れた腕で叩くと僕の体が揺れて落ちそうになった。

「大人しくしてください 落としてしまいますよ」
「だったら下ろせ・・落としたら承知しないからな!」

たいした高さではないが落とされるのはご免だ。
僕は流河の服を掴んで口で抵抗したが、ベッドに辿り着いてしまった。
背中に弾力のあるベッドの柔らかい布団を感じ、一先ず息を吐く。
苺をねだって拗ねていた男に、嵌められた。
すぐに服を取って乗り上げて来た流河を胡乱な目付きで見るが、無視された。
這い回る指を心地よく感じ始めると、先を知る僕の体は正直だ。
ここまでくれば抱かれてやるしかない。
途中で止められると僕も辛いので、流河を睨んだり顔を隠したりして軽く抵抗を示すが本気では抗えなかった。
気付けば肌に淡く赤い跡が散らばっていたが、今度は黙っておいた。









事が済んで僕は眠った振りをした。
気配を窺いながら、流河が寝入った頃を見計らって僕は体を起こした。
あのギョロっとした目を閉じた流河は幼い顔で眠っている。
幼いといっても年齢は知らない。
初めて会った頃よりも伸びて首筋に掛かった髪をそっと払う。
起きる気配が無いので、僕は閃いた悪戯を実行に移した。
言い逃れのできないよう、剥き出しの首に唇を寄せて吸い上げる。
流河は途中で目を覚ますこともなく、僕は意趣返しに成功した。
言い訳に困る流河を想像して喉の奥で笑い、付けた跡を確認して気が済んだ僕は、睡魔に導かれて意識を手放した。


一方、狸寝入りをしていたLはライトが寝たのを確認して、手を首筋に当てた。
ライトの残した跡は鏡でなければ見えないので、吸い付かれた辺りを撫でてみる。
嬉しくなったLは、お返しにライトの首筋に同じものをプレゼントした。







翌日、首筋に付けられた跡の言い訳に困ったのはライトだった。
Lはいつも通りの服装で、むしろライトからもらった証を自慢するように晒していた。





『相手によっては悪戯も効かないってことだな しかしライトのヤツ・・いいザマだぜ クククッ・・』

ライトとLを見て、リュークはまた一つ賢くなったが、余計なことを言ってリンゴを断たれるのは変わらなかった。


 


13.悪戯
04.07.08