生徒達にとって待ち遠しい夏休み目前。
一学期最後のHR前、教室内は浮き足立った生徒達で溢れていた。








3年L組 ヅライト先生!! 〜もう夏ですね・編〜






静かにドアを引き、眼鏡をかけた教師が入室すると、お喋りな生徒は口を噤んだ。
抱えていた白い紙の束を教卓に置き、教室を見回した夜神月は、
「これからみんなに通信簿を渡すから帰ったら必ず保護者に見せるように」
一部の生徒の顔が引き攣るようなことを微笑んで言った。

「んーまずは弥ミサ!取りに来て」
「はーい」
普段より高いトーンで返事をした女子生徒はいそいそと教師のもとへ駆け寄った。
片手で通信簿を寄越す相手を上目遣いで見つめれば、優しい笑顔で返してくる。
「先生!夏休みもミサ 先生に会いに学校に来ていいですか?」
「そんなに学校が好きなら補習開こうか?」
「補習よりデートがいいです」
「そんな余裕無いだろう 弥は美術以外はギリギリだったから来学期挽回するように」
はーい、と物分りのいいフリをしたミサだったが頭の中は夏休みをどうやって担任と過ごすかで占められていた。

紙村にはラグビー運動時の半分でもシャキッとするように、
樹多には色眼鏡を掛けるのはやめるように。
そして奈南川には、
「長髪はきちんと結んでくるように」
艶やかな黒髪を垂らしている男子生徒に硬い声音で注意した。
ヅライトは、長い黒髪が羨ましいわけじゃない、校則だから口を酸っぱくして注意するんだ!と
自分の正当性を内心で主張していた。
「体育の時は結わえています 普段結ぶとゴムの跡が残って厭なんです」
「規則は規則だ 守ってもらおう それから葉鳥!髪の毛を染めるのは禁止だ」
「先生!違います これは地毛です」
「嘘を吐くんじゃない!眉は立派な黒色じゃないか 夏休み明けには戻してこい いいな」
「確かに眉は黒いですけど・・でも地毛なんです!母に聞けば分かります」
必死に言い募る葉鳥を終には無視し、次の生徒の名を呼ぶ。
これ以上訴えても無意味だとしょんぼりして戻る葉鳥と入れ替わりでリュークが前へ進んだ。
「リューク お前は授業中リンゴを食べ過ぎで周りの生徒の迷惑だ 僕も気になる」
「でも減らすのは無理です!」
「もう少し静かに食べられないのか?ガリガリガリガリうるさい」
「あの音が好きなんです 味わうと自然に・・」
「夏休み中に静かに食べる特訓をしてこい!」
「ぶほっ!!」

一方的に課せられた夏休みの宿題。

「最後は・・竜崎 成績は言うことなしだが椅子の上に体育座りはやめるように」
「私は普通の座り方をすれば集中力が45パーセント減です」
「細かいな まあ座り方は勉強に支障が出ない程度に大人しくするように気を配れ」
「はい 気をつけてみます」
(ヅライトの奴、竜崎には甘いんじゃねーか?) 思ったリュークだったが口に出すのはよしておいた。

「では それぞれ課題と宿題を夏休み中に終わらせて二学期に会おう!」

委員長(紙村)の号令後、それぞれが帰り支度を始める。
一人でそそくさと帰る者、クラスメイトと夏休みの約束を取り付ける者、教師のもとへ走り寄る者。
黙って見送る者、誘いをすげなく断る者、ウザいと言って教室を去る教師。

それぞれの思惑は、それぞれの胸の内に。

「先生!」
「なんだい?」
「休みの間は私の別荘で過ごしてください」
「僕は公私混同はしない 休みの日まで生徒に付き合うのはご免だ」
「・・・先生の秘密(ヅラ)構内にばら撒いてもいいんですよ?」
「な・何を言ってるんだ・・・!?」
「明日迎えに行きますから」
猫背でクマ持ちの男子生徒は、言い残すと去っていった。

ヅライトは、眉間に皺を寄せた後、職員室へと続く階段を下っていった。








夏編・完。


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